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株の配当も保険料に?医療保険における「金融所得」反映の議論を分かりやすく解説

mesigaumai

厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会において、株式の配当や譲渡益などの「金融所得」を、医療保険料や窓口負担割合の算定に反映させるという大きな議論が進んでいます。

これまでは「確定申告をしない」ことを選べば保険料には影響しませんでしたが、今後はその仕組みが変わる可能性があります。今回は、令和7年11月・12月に公開された資料をもとに、その背景、具体的な仕組み案、そして導入スケジュールについて解説します。


社会保障の金融所得反映、ざっくりまとめ

1. なぜ今、「金融所得」の反映が検討されているのか?

最大の理由は、「負担の公平性」の確保です。

  • 現状の課題(不公平な仕組み): 現在の制度では、上場株式の配当や譲渡益について「源泉徴収ありの特定口座」などを利用し、確定申告を行わない(源泉徴収で課税関係を終了させる)ことを選択した場合、その収入は医療保険料や窓口負担割合の計算に含まれません 。 その結果、同じ実質収入があっても、給与や年金中心の人と、金融所得中心の人(申告不要を選択した人)との間で、保険料負担や窓口負担(1割〜3割)に差が生じています 。
  • 高齢者における金融所得の増加: 高齢者(特に75歳以上)において、利子・配当所得の保有割合が増加しており、高所得層ほどその傾向が強いというデータがあります 。

このため、「確定申告の有無にかかわらず、金融所得を把握して負担能力に反映させるべきではないか」という議論が進められています 。

2. 誰が対象になるのか?

現在の議論では、まずは「後期高齢者医療制度(75歳以上)」からの導入が有力視されています 。

  • 理由:
    • 国民健康保険(国保)については、自治体のシステム標準化のスケジュールや、被用者保険(会社員等の保険)とのバランスなどの課題があるため 。
    • まずは、金融資産の保有が多い高齢者層から適正化を図る狙いがあります。

3. どうやって「申告していない所得」を把握するのか?

金融機関から税務署へ提出される「法定調書」を活用する新しいスキームが提案されています。

【提案されている仕組み】「法定調書DB(仮称)」方式

  • 金融機関: 配当等の情報を記載した「法定調書」を国(税務システム)に提出する際、マイナンバーの記載を徹底し、オンライン提出を行う 。
  • 国(税務側): 新たに「法定調書DB(仮称)」を構築し、ここで個人の金融所得データを集約する 。
  • 保険者(広域連合): 既存の地方税情報(課税所得)に加え、法定調書DBから連携された金融所得情報を合算して、保険料や窓口負担区分を決定する 。

これにより、本人が確定申告をしなくても、保険者が金融所得を把握できる仕組みを目指しています。

4. いつから始まる?(スケジュール案)

システム改修等に時間を要するため、実際の運用開始までには数年かかる見込みです。

  • 令和7年(2025年)通常国会: 関連法案(高齢者の医療の確保に関する法律等)の提出・成立を想定 。
  • 公布後2〜3年程度: システム構築(法定調書DBなど)や金融機関へのマイナンバー付番要請 。
  • 公布後4〜5年程度(2028年度頃〜): 金融所得を反映した保険料・窓口負担区分の適用開始(見込み) 。

政府の「改革工程」では、2028年度までの実施について検討するとされています

5. まとめと今後の注目点

今回の議論は、単なる増税や負担増という側面だけでなく、「世代内・世代間の公平性」をどう保つかという社会保障全体の大きなテーマの一部です 。

  • ポイント:
    • 対象: まずは75歳以上の後期高齢者医療制度から検討。
    • 影響: 株式配当などを多く受け取っているが確定申告していない高齢者は、将来的に保険料アップや窓口負担(1割→2割・3割)への変更が生じる可能性があります 。
    • NISA等は?: 現在の資料では、非課税口座(NISA)の金融所得は元々対象外(保険料等に勘案されない)という整理がなされています 。今回の改革はあくまで「課税対象だが申告していない所得」を捉えるものです。

今後、法案の具体的な内容や、マイナンバー活用の実務的な詳細が詰められていくことになります。投資を行っている高齢者やそのご家族は、今後のニュースに注目しておく必要がありそうです。

【深掘り】株の配当が医療保険料に直撃?「法定調書DB」の仕組みと負担増シミュレーション

厚生労働省で進められている、医療保険制度における「金融所得(株の配当や譲渡益)」の反映に関する議論についてさらに踏み込み、「国はどうやって申告していない所得を把握するのか?」という具体的な仕組みと、「実際に負担はどれくらい変わるのか?」というシミュレーションを解説します。

1. 「申告不要」でも把握される?新システム「法定調書DB」の全貌

現在、特定口座(源泉徴収あり)で運用している場合、確定申告をしなければ、その情報は市町村の保険担当部署には届きません。これを解消するために提案されているのが、「法定調書DB(仮称)」を活用した新スキームです 。

提案されている情報の流れ

これまでは「本人の申告」頼みだった情報の流れが、以下のように「金融機関からのデータ連携」へと変わります。

  • 金融機関等の役割:証券会社や銀行は、これまで通り税務署へ「支払調書(特定口座年間取引報告書など)」を提出します。この際、マイナンバーの記載とオンライン提出が徹底されます(現在、記載率は約9割) 。
  • 国(税務システム)の役割:提出されたデータは、新設される「法定調書DB(仮称)」へと連携されます 。
  • 法定調書DBでの処理:ここで、バラバラに提出された金融所得情報が、マイナンバー等をキーにして「個人単位」に名寄せ(合算)されます 。
  • 保険者(広域連合)へ:名寄せされた金融所得データが、各都道府県の後期高齢者医療広域連合へ提供されます 。
  • 保険料の計算:保険者は、既存の「住民税課税所得」の情報に、今回連携された「金融所得」を合算して、正しい所得に応じた保険料や窓口負担割合を決定します 。

つまり、「確定申告をしない」という選択をしても、裏側でデータが連携され、保険料計算に含まれるようになるというのが、この仕組みの核心です。

2. 【比較】負担はどう変わる? 具体的なモデルケース

では、この制度改正によって実際の負担はどのように変わるのでしょうか。厚生労働省の資料にある「70代後半・夫婦2人世帯」の例をもとに比較します 。

モデルケース設定

  • 対象者: 75歳以上(後期高齢者医療制度)、単身または夫婦世帯
  • 収入合計:280万円
    • Aさん(年金のみ): 年金収入 280万円
    • Bさん(金融資産あり): 年金収入 230万円 + 株の配当等 50万円(※申告不要を選択)

現状、収入の合計額は同じ280万円ですが、Bさんは「申告不要」制度を使っているため、保険料計算上の所得が低くなっています。

【比較】現状 vs 改正案(金融所得反映後)

項目Aさん
(年金のみ 280万円)
Bさん
(年金230万円+配当50万円)
現状の扱い申告不要を選択中
窓口負担2割1割
(所得が低いとみなされるため)
年間保険料約17万円
(月額 14,165円)
約11.9万円
(月額 9,911円)
不公平ポイント同じ収入なのに負担が重い年間 約5.1万円 安い
+ 医療費も1割負担で済む

改正されるとどうなる?(Bさんの未来)

制度改正により、Bさんの「配当50万円」が所得として把握・加算されると、Bさんの扱いはAさんと全く同じになります。

  • 窓口負担: 1割 → 2割へ増(医療費の支払いが倍になる可能性があります)
  • 年間保険料: 約11.9万円 → 約17万円へ増(年間 約5万円の負担増)

※上記の数字はモデルケースに基づく試算であり、実際の居住地域や世帯構成により異なります 。

3. まとめ:公平性の確保と今後の影響

このシミュレーションから分かるように、現在は「金融所得を申告しないこと」で、保険料や窓口負担を低く抑えられるケースが存在します。今回の改革は、この「同じ収入なら同じ負担」という原則を徹底するためのものです。

特に、老後の資金として株式投資やNISA(※現行案ではNISAは対象外の見込み )以外の運用を行っている方にとっては、将来設計に影響を与える大きな変更点となります。

今後のスケジュール(見込み)

  • 2025年(令和7年):関連法案の提出・成立
  • その後2〜3年:システム開発(法定調書DBの構築など)
  • 2028年度頃〜: 実際に保険料への反映がスタート?

まだ決定事項ではありませんが、資産運用をしているシニア世代、そして現役世代にとっても、無視できない制度変更が進んでいます。


参考資料

【図解】「法定調書DB」で何が変わる?見えない所得を把握する新システム

これまで「確定申告不要」を選択することで、医療保険料の計算には含まれていなかった株の配当などの収入について、国は新たに「法定調書DB(データベース)」を構築し、それらを自動的に紐付ける仕組みを導入しようとしています。

その「お金と情報の流れ」を整理してみました。

1. 全体像のフローチャート(新システム)

ポイントは、「金融機関」から「国(DB)」へ、マイナンバー付きで情報が直接渡る点です。

データの流れ 3ステップ解説

  • 情報の吸い上げ(金融機関 → 国)
    • 証券会社などの金融機関は、誰にいくら配当を払ったかという「法定調書」を国(税務署)に提出します。
    • この時、マイナンバーを付記し、デジタルデータで提出することが徹底されます。
  • 情報の名寄せ(法定調書DB)
    • 国税庁側に新設される「法定調書DB」にデータが集まります。
    • バラバラに送られてきた情報を、マイナンバーを鍵にして「Aさんの所得」として一人ひとりにまとめます(名寄せ)
  • 保険者への連携(国 → 広域連合)
    • まとめられた金融所得データが、都道府県の広域連合(後期高齢者医療の運営主体)へ送られます。
    • 広域連合は、市町村から来る「年金などの所得」と、今回届いた「金融所得」を合算し、保険料や窓口負担割合(1割〜3割)を決定します。

2. 【比較図】「現在」と「改正後」の違い

なぜこのシステムが必要なのか、現状の「抜け穴(不公平)」と、改正後の姿を比較します。

【現在】申告不要の壁

本人が「申告不要」を選ぶと、金融所得の情報は市町村(保険担当)へ届きません。

データの種類情報の流れ保険料への影響
① 公的年金など年金機構 → 市町村 → 保険者反映される
② 株の配当など証券会社 → (源泉徴収) → 終了反映されない

結果: 金融資産が多くても、年金が少なければ「低所得者」扱いとなり、保険料が安く、窓口負担も1割で済んでしまう。

【改正後】法定調書DBによる「みなし」合算

本人が申告しなくても、裏側でデータが結合されます。

データの種類情報の流れ保険料への影響
① 公的年金など年金機構 → 市町村 → 保険者反映される
② 株の配当など証券会社 → 法定調書DB保険者反映される!

結果: 申告の有無にかかわらず、実質的な収入能力に応じて、公平に保険料や窓口負担が決まる。


3. 私たちは何を準備すればいい?

このシステムが稼働(2028年度頃を想定)すると、特に手続きをしなくても自動的に所得が把握されるようになります。

  • マイナンバーの届出:現在、証券会社等へのマイナンバー告知率は高い(9割超)ですが、未提出の場合は提出を求められる機会が増える可能性があります。
  • 負担増の心構え:「源泉徴収あり口座だから関係ない」と思っていた配当金などが、すべて保険料計算の土台に乗るようになります。ご自身の年間配当額等を把握し、負担区分が変わるボーダーライン(例:年収200万円以上など)を超えるかチェックしておく必要があります。

おわりに

今回は社会保障に対する金融所得課税について、現在進行形のお話をまとめてみました。まずは高齢者(75歳以上)をターゲットとしていますが、徐々にボーダーラインを引き下げて対象者を増やしていくと思いますので、今後も金融所得課税の話題が出たら取り上げていきたいと思います。

この手の話が出るといつも思うところがあり、何で先に支出を削減する話が出ないのだろうと。「パーキンソンの第二法則」というものがあり、支出の額は収入の額に達するまで膨張するというもので、支出を見直さないといくら収入(税収)を増やしても使い切ってしまうのではないのかと。これは家計も同じなので、資産形成の初期は支出の見直しが最重要課題となります。何故政府は支出削減に力を入れないのか?

我が家の今年の支出はと言うと、メインパソコンの新調やらMacBookの購入やらでめちゃくちゃ使いすぎてしまいました。来年はもう少し節約しないといけないなぁと思う今日この頃です。

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お金持ちの無職になりたい夫婦
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アラフォー共働き夫婦とネコ2匹で暮らしています。FIRE目指して2023年から本格的に資産運用を始めました。まだまだ道は遠いけど、資産が増えると嬉しいなぁ。
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