新NISA、さらなる改良が進むか?

先日ニュースでこんな文言を見かけました。「新NISAでスイッチングが可能になるか」。iDeCoではスイッチングができるのですが、新NISAではスイッチングは不可となっています。ちなみにスイッチングとは、「主に投資信託で、保有している金融商品を売却し、同時に別の金融商品を購入して資金を入れ替えるもの」となります。新NISA内の保有資産を売却してしまうと年間上限枠は復活しませんが、仮にスイッチングが可能となると保有資産の入れ替えができるようになるため、今まで以上に使い勝手がよくなる可能性を秘めています。
巷では神制度と呼ばれている新NISAがさらに改良される話が出回っていますが、今回はこれらの情報についてまとめていきたいと思います。まとめた情報が皆様のお役に立てれば幸いです。
スイッチングが可能かどうかの真偽について
冒頭にお話しましたスイッチングについての結論からお話します。
「スイッチングが可能とは謳われていない」
今回の話の出どころは、金融庁発表の「令和8(2026)年度 税制改正要望について」が元となっていると思います。内容については後程まとめていきますが、現段階ではあくまで「要望」であり、確定情報ではないことを認知しておいてください。
それでは上記の税制改正要望についてまとめていきたいと思います。
令和8(2026)年度 税制改正要望についてのまとめ
概要
本資料は、金融庁が2026年度の税制改正に向けて政府に要望する項目を整理したもので、以下のテーマを中心に構成されています。
- 資産運用立国の推進
- 暗号資産・保険分野の見直し
- 国際金融センターの実現
- その他の関連制度
1. 資産運用立国の推進
(a)NISA(少額投資非課税制度)の充実
- 投資枠・非課税限度額:
- 成長投資枠:年240万円、非課税保有限度額1,200万円
- つみたて投資枠:年120万円
- 合計非課税保有限度額:1,800万円
※限度額に関しては現行制度から変更なし
- 具体的要望:
- 子ども支援の観点から「つみたて投資枠」の対象年齢等の見直し
- 投資商品の入れ替えを容易にするため、非課税限度額の当年中の復活
- 多様な資産運用ニーズに応える商品ラインナップの拡充
(b)NISAに係る所在地確認手続きの簡素化
- 現行制度では、口座開設後10年経過時およびその後5年ごとに所在地確認が必要で、これが郵送などで行われており顧客・金融機関双方に負担。
- 要望事項:簡略化かつ実効性のある代替手段の検討(本人確認と負担軽減の両立)
(c)インフラファンド(投資法人)に対する税制優遇措置の見直し・延長
- 現行優遇措置には以下の適用条件があり、それが実務上の障害に:
- 再エネ設備を3年以内に取得
- 賃貸のみ運用(匿名組合出資では要賃貸)
- 取得後20年以内
- 上場投資法人であること
- 要望事項:
- 優遇措置の適用期限延長(3年間を超える期間)
- 匿名組合出資の場合の賃貸要件の緩和
- 耐用年数の長期化に伴い、適用期間を20年以上へ
2. 暗号資産・保険分野の見直し
(a)暗号資産取引に係る課税の見直し
- 現行制度では、暗号資産から得た所得は総合課税対象(通常の金融商品は分離課税)。
- 要望事項:
- 暗号資産を資産形成向け金融商品として位置づけ、分離課税導入の検討
- 投資家保護のための説明義務や適合性規制の法整備
- 取引業者による税務当局への報告義務の整備
- 暗号資産ETFの組成検討(税制も含む)
(b)生命保険料控除制度の恒久拡充
- 現在、23歳未満の扶養親族がいる場合、一般生命保険料控除に2万円上乗せの時限措置が実施中。
- 要望事項:この措置を恒久化し、子育て世帯の保障ニーズに対応
3. 国際金融センターの実現
(a)外国組合員への課税特例の見直し
- 現行では、日本にGP(無限責任組合員)が存在するファンドに、LP(外国の有限責任組合員)が参加すると原則課税。ただし、一定条件下で非課税特例あり。
- 条件が厳しく手続き複雑な点が投資抑制になっている。
- 要望事項:適用要件の緩和と手続きの簡素化
(b)クロスボーダー投資の租税条約手続きの見直し
- 現状課題:
- ファンドを介した投資でも、投資家レベルで条約の申請が必要 → 投資家多数のファンドでは現実的に困難
- 添付書類が多く、管理・提出負担が大きい
- 要望事項:
- ファンドを通じた投資での適用申請の簡素化
- 一定金融機関による手続き全体の簡略化
(c)金融所得課税の一体化(損益通算枠の拡大)
- 現在、上場株式や公社債などで損益通算が可能だが、デリバティブ取引や預貯金などは対象外。
- 多様な金融商品を用いた投資環境の整備が途中段階。
- 要望事項:デリバティブ取引や預貯金等へ損益通算対象を拡大すること
4. その他の要望項目
その他、さまざまな分野での税制措置の延長や見直し、また恒久化などが含まれています:
- 東日本大震災関連の印紙税非課税措置延長
- 企業年金積立金への特別法人税廃止または課税停止
- 海外ファンドとの債券レポ取引に係る非課税措置の恒久化
- 教育資金一括贈与の非課税措置延長
- 特定投資運用業者の役員へ業績連動給与の損金算入
- 土地信託登記に係る登録免許税軽減延長
- 銀行等保有株式に係る税制特例の延長
- 上場株式の相続税見直し
- 国際租税対応措置
- 保険会社向け外形標準課税の維持
- 死亡保険金の非課税限度額引上げ
- 自動的情報交換制度(資金決済法改正)対応
- 従業員持株会の特定口座移管措置
- OECD新国際課税ルールへの対応
- 金融制度見直しに伴う措置など
総まとめ
全体として、本資料は「資産形成の促進」「国際投資環境の整備」「税制の合理化と柔軟化」を目的に、NISAやインフラファンド、暗号資産、クロスボーダー税制など、多岐にわたる分野での税制改正を提案しています。特に、若年層や子育て世帯、そして国際投資家に配慮した恒久的かつ柔軟な制度設計が焦点となっています。
※引用元:https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20250829/01.pdf
以上がざっくりまとめになります。スイッチングの話は、「投資商品の入れ替えを容易にする」という部分がかなり飛躍した形で情報が拡散されたものだと思います。実際にスイッチングが実装されれば私としては嬉しいですが、今後の展開を見守っていく必要があります。
今回の税制改正要望のメリット・デメリット
概要を先にまとめましたが、私たちに大きく関係があるのはNISAだと思いますので、NISA関連に注目してメリットとデメリットをまとめていきたいと思います。
※あくまで現段階では「要望」レベルの話であり確定したものではありませんのでご注意ください。
メリット
1. 投資家(利用者)にとって
- 商品の多様化
ニーズに合わせて、より幅広い金融商品(例:ETF、成長資産など)を非課税で活用できる可能性。 - 柔軟性の向上
「非課税枠の年間復活」が実現すれば、売却後に再投資できるため、ライフイベントや市場環境の変化に対応しやすい。 - 世代間格差への対応
子ども・若年層支援のための枠拡充が行われれば、早期から資産形成を始めやすい。
2. 制度運用・社会的観点から
- 貯蓄から投資への流れを加速させ、家計金融資産の活用を促進。
- 資本市場に長期資金が流入し、企業の成長投資を支える。
デメリット
1. 投資家(利用者)にとって
- 制度の複雑化
「成長投資枠」「つみたて投資枠」など複数の枠組みがあり、さらに「枠の復活」などが加わると仕組みが分かりにくくなる可能性。 - 資産運用格差の拡大
投資に回せる余裕資金がある層ほど恩恵を受けやすく、所得や資産が少ない層は十分に活用できない懸念。
2. 制度運用・社会的観点から
- 税収減少の懸念
非課税枠が広がることで、国の税収が減り、財政負担が増える可能性。 - 金融機関の負担
手続き(所在地確認など)が簡素化される一方で、新制度対応に向けたシステム改修や説明コストが発生する。 - 短期売買の増加リスク
枠の年間復活が導入されると、非課税を活かした短期売買のインセンティブが強まり、制度趣旨の「長期・積立・分散投資」から逸脱する可能性。
まとめ
メリット:商品多様化・再投資の柔軟性 → 投資家の利便性が高まる。
デメリット:制度複雑化・税収減・富裕層偏重リスク → 公平性や制度目的とのバランスが課題。
メリット・デメリットをまとめましたが、この中で私達が気を付けなければならないのは、「短期売買が増えてしまうリスク」の部分になります。長期インデックス投資においては、「長期・分散・低コスト」が最重要項目となりますので、短期売買はこれから逸脱した行為になります。制度が改良されて便利になるのはいいことですが、航路を守るために初心を忘れないようにしたいですね。
おわりに
今回の税制改正要望は個人投資家にとって有用なものがいくつか含まれていましたので、今後の動向に注目していこうと思っています。新NISAに関して個人的な要望としては、「非課税保有限度額」を引き上げてほしいと思っています。今は1,800万円が上限ですが、今後日本でもインフレが進んでいく可能性を考えると、上限の引き上げをしてもいいのではと思います。年金には全く期待していないので、自分の金融資産のみで老後を過ごせるくらいの非課税枠が必要だと思っています。1,800万円だと豊かに過ごすには少し物足りない気がしますので、上限引き上げに動いてくれると嬉しいなぁと思う今日この頃です。