【2026年税制改正】「178万円の壁」突破と「物価連動」へ。私たちの生活はどう変わる?
2025年12月19日、自民党と日本維新の会の新たな連立枠組みのもと、「令和8年度(2026年度)税制改正大綱」が決定しました 。今回の改正は、高市政権が掲げる「強い経済」の実現に向けた、非常にインパクトの大きい内容となっています 。
今回はこの税制改正大綱の内容について、まずは要点を絞ってざっくりまとめていきます。その後、私たちの生活に直結する「178万円の壁」について、さらに深掘りしていきます。
令和8年度 税制改正大綱をざっくりまとめ
1. 所得税改革:「178万円の壁」の仕組みと「物価連動」の導入
最も注目を集めているのが、所得税の負担開始水準(いわゆる「103万円の壁」)の引き上げです。
「178万円」への具体的なステップ
今回の改正では、令和8年・9年の2年間の時限措置として、課税最低限を178万円に引き上げます 。その内訳は以下の通りです。
- 基礎控除の引き上げ:現行58万円 → 62万円
- 給与所得控除(最低保障額)の引き上げ:現行65万円 → 69万円
- 基礎控除の特例の新設:上記2つに加え、さらに47万円(現行37万円から増額)の控除を上乗せ
これにより、合計178万円まで所得税がかからない仕組みとなります 。
日本初「物価連動型」控除の導入
これまで控除額は固定されていましたが、物価が上がると実質的な税負担が増えてしまう課題がありました 。今後は、直近2年間の消費者物価指数(CPI)の上昇率に合わせて基礎控除額を調整する仕組みが導入されます 。令和8年度は、CPI上昇率6.0%を反映し、基礎控除が4万円引き上げられました 。
2. 資産運用:NISAの0歳拡大と暗号資産の20%課税
「貯蓄から投資へ」の流れを、次世代や新たな金融資産へも広げる方針が示されました。
NISA(つみたて投資枠)が0歳から利用可能に
次世代の資産形成を支援するため、NISAの対象年齢が0歳まで拡大されます 。
- 投資枠:0歳〜17歳の間は、年間投資枠60万円、非課税保有限度額600万円 。
- 払出し制限:12歳以降、子の同意を得た場合に限り、親権者による払出しが可能となります 。
- 投資対象の追加:国内市場を対象とした株式指数や、債券が50%を超える投資信託も対象に加わり、より幅広いニーズに対応します 。
暗号資産の「分離課税」がついに明記
投資家保護の法整備などを前提としつつ、暗号資産の現物・デリバティブ取引等による所得が20%の分離課税の対象となる見通しです 。あわせて、3年間の損失繰越控除も創設されます 。
3. 法人税・産業支援:AI・量子などの「戦略分野」を国策支援
企業に対しては、「攻めの投資」を促すための強烈なインセンティブが用意されています。
- 「戦略技術領域型」研究開発税制の新設:AI、先端ロボット、量子、半導体、バイオ、宇宙など、国家戦略上重要な技術への試験研究費に対し、既存の措置とは別枠で高い税額控除を適用します 。
- 大胆な設備投資促進税制:全業種を対象に、投資額35億円以上(中小企業は5億円以上)かつROI 15%以上の高付加価値投資に対し、即時償却または高い税額控除を認めます 。
- 賃上げ促進税制の見直し:大企業向け措置は適用期限を待たずに廃止されますが、人手不足が深刻な中小企業向けは現行制度が維持されます 。
4. 生活・暮らし:増税と減税、そして終了する制度
- 国際観光旅客税の増税:オーバーツーリズム対策の財源確保のため、出国1回につき現行1,000円から3,000円へ引き上げられます 。
- 住宅ローン控除の5年延長:省エネ性能の高い住宅や子育て世帯への支援が手厚くなります 。
- ひとり親控除の拡充:所得税の控除額が35万円から38万円に引き上げられます 。
- 教育資金一括贈与の終了:これまで認められていた1,500万円までの非課税措置は、令和8年3月末で延長せず終了となります 。
まとめ:私たちの取るべき行動は?
今回の改正案は、中低所得者層への減税(178万円の壁)や子育て世帯への支援を手厚くする一方で、教育資金の贈与特例の終了や観光旅客税の増税など、メリハリのある内容となっています。
特にNISAの0歳拡大や暗号資産の分離課税化は、個人の資産運用戦略を大きく変える可能性があります。制度の開始時期や詳細な条件を把握し、早めに準備を進めることが重要です。
出典:令和8年度税制改正大綱(2025年12月19日 自由民主党・日本維新の会)
「178万円の壁」をさらに深掘り
今回の改正案では、単なる「103万円から178万円への引き上げ」だけでなく、物価連動による「基礎控除の本則」と「給与所得控除」の調整、および所得金額に応じた「基礎控除の特例」の加算という複雑な仕組みが導入されています 。
複雑故に実際にどのくらい恩恵があるの?と思いましたので、実際に試算をしてみました。
1. 【年収別】所得税の減税額シミュレーション(R8大綱準拠)
R8大綱の記述に基づいて控除額の増加分を計算してみると、年収による減税額の目安は以下のようになります。
| 年収(額面) | 控除の増加合計(概算) | 所得税率(目安) | 年間減税額 | 備考 |
| 〜178万円 | +75.0万円 | 0% | 0円 | 178万まで所得税が非課税に |
| 350万円 | +75.0万円 | 5% | 約3.7万円 | 所得税率5%の最大減税額 |
| 550万円 | +40.0万円 | 10% | 約4.0万円 | 475〜665万の特例加算を反映 |
| 800万円 | +8.0万円 | 23% | 約1.8万円 | 665万超は物価スライド分のみ |
- 475万円以下の層:基礎控除と給与所得控除の引き上げ(計168万円)に、特例の10万円加算が加わり、計75万円の控除増となります 。
- 475万円〜665万円の層:基礎控除の特例が10万円から42万円へ「32万円」引き上げられ、物価連動分(8万)と合わせて計40万円の控除増となります 。
- 665万円超の層:高所得者向けの特例加算は限定的(5万円据え置き等)なため、主に物価連動による本則部分の引き上げ(計8万円)が減税の主体となります 。
年収665万円をボーダーとして、基礎控除の特例による引き上げの恩恵が受けられなくなるため、減税の恩恵幅が狭くなる仕組みとなっています。
改正後の注意点としては、「所得税はかからないが、社会保険料だけが重くのしかかる」という期間が長くなります。例えば、年収150万円で働いた場合、所得税は改正により0円になりますが、社会保険料で22.5万円が引かれるため、「105万円で抑えていた時よりも手取りが減る」という現象は依然として解消されません。
「178万円まで所得税がかからない」というのは大きな減税ですが、社会保険の扶養枠(106万・130万)を意識せずに働くと、手取り額がガクンと減るリスクがあります。
2. R8税制大綱と国民民主党が当初提案していた「178万円の壁」を比較してみた
今回の減税について、やっと178万円の壁が動いて手取りが増えそうだなぁと思っていましたが、金額の試算してみると「何かしょぼくない?」と思いました。本当に国民民主党が提案していた「178万円の壁」の内容と一致しているのか疑問に思ったので、こちらも金額試算してみました。年収400〜600万円で減税額の差を比較したものが以下となります。
| 年収 | 国民民主党の当初案 | R8改正大綱 | 減税額の差 |
|---|---|---|---|
| 400万円 | ▲11~12万円 | ▲2~3万円 | 約9万円差 |
| 500万円 | ▲13~14万円 | ▲3~4万円 | 約10万円差 |
| 600万円 | ▲15万円前後 | ▲4~5万円 | 約10~11万円差 |
なんと10万円前後も減税額に差がでていました。178万円の壁という言葉は同じでも、当初案とR8税制大綱は別の制度と言ってもいいレベルの金額差となっています。
何故にこんなに差が生まれたのか?と思ったので国民民主党当初案とR8税制大綱の違いを調べてみました。
① 当初案(国民民主党が最初に主張していた内容)
🔵 何を変えようとしていた?
- 基礎控除+給与所得控除の合計を一律178万円に
- つまり、年収178万円までは“誰でも”所得税・住民税ゼロ
🔵 対象は?
- 原則すべての給与所得者
- 年収制限なし(高所得者も同じ控除増)
🔵 減税の規模
- 個人:年10万~20万円超の減税(年収500~700万円層)
- 国全体:7~8兆円規模の減税
🔵 性格
- 恒久的
- シンプル
- インフレ対応(控除水準を現代化)
🔵 イメージ
「昔決めた103万円が古すぎるから、働く人の“最低ライン”を一気に引き上げよう」
② 2026年税制改正大綱(実際に決まった内容)
🟠 何が変わる?
- 「178万円」という表現は使われているが…
- 基礎控除・給与所得控除を“部分的・段階的”に上積み
🟠 対象は?
- 年収およそ665万円以下が中心(全体の約8割)
- 高所得層は効果が縮小、または対象外
🟠 減税の規模
- 個人:数千円~最大3~6万円程度
- 国全体:約6,000~7,000億円
🟠 性格
- 限定的
- 財源配慮型
- 政治的折衷案
🟠 イメージ
「物価高で大変だから、影響が大きい層だけ、少しだけ軽くしよう」
③ 並べると一目で分かる違い
| 項目 | 当初案 | 2026年改正大綱 |
|---|---|---|
| 非課税ライン | 178万円に一本化 | 名目178万だが実質は部分対応 |
| 対象 | 全給与所得者 | 年収制限あり |
| 減税額(500万) | 約13~14万円 | 約3~4万円 |
| 減税総額 | 7~8兆円 | 約0.6~0.7兆円 |
| 制度の単純さ | ◎ | △ |
| インフレ対応 | ◎ | △ |
| FIRE・投資余力 | 大きく増える | ほぼ変わらない |
言葉は同じ「178万円の壁」でも当初案とは似ても似つかぬ制度設計となっていました。この程度だと「家計の調整レベル」の減税額だなぁと言うのが率直な感想です。まあやらないよりは全然マシだと思いますが…。
おわりに
2026年税制改正大綱の内容、「178万円の壁」については深掘りをしてまとめてみました。今回の改正内容では可処分所得が増えた実感は湧かないと思うので、改正したから財布の紐が緩むことはないかなぁと。手取りが増えた分はそのまま投資に流してしまうかなぁという印象ですね。
R8大綱は国民民主党の当初案からはかなり離れた制度設計となって残念ではありますが、政府が「減税をした」という事実は好意的に受け止めたいと思います。国民民主党が働きかけてくれたおかげで減税の第一歩を勝ち取ることができたと思いますので、素直にありがとうと言いたいです。ただし、これはあくまで減税の第一歩だと考えて、当初案が実現するまで国民民主党には頑張ってもらいたいなぁと思う今日この頃です。

